ジュエルライブ マダムライブ

春名さんと出会って、世の中には【若い未亡人】てやつが本当にいるってことを知った。

俺は熊谷市に住む28歳のごく普通の会社員。
前の彼女に浮気されて別れて3ヶ月。

PCMAXには前から登録してあったけど、彼女がいる間は覗いてなかったんで、久々にログインしてみた。
なんやかんやあって、ヤリモクの女の子と二人ヤったけど、やっぱり普通の彼女が欲しくて、気の会う子がいないかなって探してた。

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俺は日記を見るのが好きなんだけど、その中に、ひたすら自分が育ててる花のことをネタにしてる人がいた。
それが春名さんだった。

女子力アピールとか、構ってチャンとかそういうのじゃなくて、ただずーっと、今日はこんな手入れをしたとか、こんな花が咲きましたとか、何かの実を鳥が食べに来たとか、そんなこと書いてんの。

最初は、書く場所間違えてんじゃね?って思った。

でもなんか気になって、時々覗いてみるようになった。

ある日、その春名さんがアップした写真の花が、俺が中学の時、生物がかりってやつで毎日世話してた花にそっくりだったのね。
で、なんか懐かしいなーって思って、思わずメールしてしまった。
『日記見ました。ひなぎく綺麗ですね。俺が中学の時、学級花壇に植えてあったデイジーって花と似てて懐かしいです』
って。
そしたら、
『ありがとう、とても嬉しいです。学級花壇なんて、私も懐かしいな。ところで、デイジーと雛菊は同じ花ですよ(笑)』
って返事がきた。
めちゃくちゃ恥ずかしかったけど、そんなきっかけで俺は春名さんとメールするようになった。

春名さんはすごく物腰の柔らかい人で、メールのやりとりだけでも癒されるっつーか、楽しかった。
俺は園芸のネタなんてほとんどなかったけど、家庭菜園やってるばーちゃんからもらったブロッコリーを茹でたら、水面が緑色になるくらい虫が浮いてきて絶叫したとか、そんなくだらない話しを楽しそうに聞いてくれた。

そんなある日、突然春名さんの方から会いたいって言ってきたんで、俺は驚いた。
俺も会ってみたいって気持ちはあったんで、一も二もなくOKした。

春名さんも熊谷の人だったけど、よくよく聞いてみると俺と春名さんはかなり近くに住んでて、荒川を挟んで右と左、くらいの位置関係だった。

小前田の駅で、俺は初めて春名さんと会った。
春名さんはPCMAXには顔出ししてなかったし、会う前に写メ交換とかもしなかったんで、まさしく初見だった。
ほっそりしててキレイ顔なんだけど、表情がちょっと暗いのと、おどおどした雰囲気のせいで、ちょっと暗い感じの人だった。
割と美人なのに、もったいないなーと思った。
「今日は来てくれてありがとう」
って笑う顔も、嬉しいっていうよりホッとしたって感じの表情だった。

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小前田からすぐのとこに、花園フォレストっていう、スイーツ食べながらバラの庭が楽しめます的な趣旨の店があって、春名さんがそこに行ってみたいってリクエストしてきた。
「ずっと来てみたかったけど、一人じゃ入りづらくて」
って言うんで、無神経にも、
「一緒に来る人いないの?」
って聞いてしまった。

春名さんは県外の人で、少し前に埼玉に越してきて、今は親戚の園芸ショップで働いてるんだって言ってた。
家族経営みたいな店だから、同僚もいないし、休みの日は土いじりばっかりしてるから、交友関係がものすごく狭いらしい。

30になったばかりの春名さんが、老人みたいな生活してるのを心配したおじさんおばさんが、友達を作れ恋人をつくれってうるさかったんで、PCMAXに登録したんだそうな。
いいのかそれで…。

で、ヤリモクだの割り切りだのを片っ端からお断りリストに入れてたところ、初めて、曲がりなりにも花の話題で話しかけてきたのが俺だったんだって。
ピエール・ド・ロンサール(フランスの詩人の名前なんだって。春名さんが教えてくれた)でお茶しながら、春名さんからそんな話を聞いた。

残念なことに、この日は俺に仕事の急用が入ってしまい、これでお開きになった。
別れ際、春名さんが何となくさみしそうに見えて、俺はその日のうちに次の約束をとりつけてしまった。
また会って欲しいって連絡したら、春名さんはこっちがびっくりするくらい喜んでくれた。

二回目のデートで荒川大麻生公園に行った。

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春名さんは人の多いところは苦手らしいので、小麦の丘っていうパン屋で昼食を買って、芝生に座ってのんびりした時間を過ごした。
時々、道っぱたの植物の写真とかを撮ってたけど、後日PCMAXの日記でそれを発見した時は驚いた。

ブログとか好きなのかと思ったら、フェイスブックとツイッターの違いもよくわからないんだって。
本人曰く、PCMAXに登録したものの何をしていいかわからず、とりあえず日記を書いてたらそれが楽しくなったんだそうだ。

その後も何度かデートして、プラネタリウム館とかも行った。
春名さんて何気に博識で、荒川公園でも鳥を見つけて「あれはカワセミだよ」って教えてくれたり、星座にまつわる物語とかも教えてくれた。
春名さんの話し方が上手いんで、興味ない話題でも楽しく聞いてられた。

春名さんが未亡人だって聞かされたのは、熊谷のスポーツ文化公園をぶらぶら歩いてる時だった。
旦那は5歳年上の商社マンで、死因は過労死だった。
若くてもある日突然…ってのは本当にあるんだなと思った。

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旦那が亡くなって、春名さんは旦那の親族からすごく非難されたんだって。
あんたが不甲斐ない嫁だから、旦那が過労死なんかしたんだって。
それで、地元に居づらくなって、遠く離れた埼玉で園芸ショップやってた親戚を頼って来たらしい。
春名さんの、いつも人の顔色伺ってるような雰囲気は、その時に身についちゃったんじゃないかと思う。

熊谷に越してきた頃にはすっかり人付き合いが苦手になってて、友達も作らず土いじりばっかりしてたんだって。
PCMAXの日記にアップされてたたくさんの花の写真を思い出して、俺は柄にもなく悲しいっていうか、切ない気持ちになった。
親戚のおじさんおばさんも、そりゃ心配するよな。

ちなみに俺は、この二人に会ったことがある。
春名さんが、部屋に置く本棚が欲しいって言うんで、Bウェーブに一緒に行ったんだけど、買った商品を家まで運んだ時に、ご挨拶させてもらった。
いきなり行って怪しまれるんじゃないかと思ったけど、なんかもーすげー歓迎っぷりだった。

夕飯をぜひともご一緒にって言われて、俺も図々しくお邪魔させてもらった。
若い人の口に合うものが作れないからっつって、わざわざドミノピザをとってくれた。
普段デリバリーピザなんか食べないんだろうな。何をどう注文したのか、3枚のうち1枚が、トラウマになりそうなくらい辛いピザで、皆で辛い辛いって大騒ぎしてるうちに緊張もほぐれて打ち解けた気がする。

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そんで後日、春名さんとあじさい寺に行った時にも、ふと辛いものの話しになった。
俺は以前、やっぱり家庭菜園やってるばーちゃんにもらった唐辛子でペペロンチーノを作ったら、辛すぎて食えなかったって話しをした。
春名さんは、
「きっと太陽の光をいっぱい浴びた唐辛子だったんだね」
って言って笑ってた。
多分わかってもらえないと思うけど、なんかその瞬間、この人のこと好きだなって思った。

今は人と関わるの避けてるけど、春名さんだって多分それじゃダメだって思ってるんだろうし、さみしかったんだと思う。
PCMAXでたまたま出会った、俺みたいな特に何のとりえもない奴と関係を持ちたがるくらい、本当はさみしかったんだと思う。

俺と春名さんはほとんど毎週末会うようになって、おじさんおばさんも、俺のこと親戚の子みたいな扱いをしてくれてる。
春名さんは、前よりちょっとだけ明るくなったような気がする。
俺はまだ自分の気持ちを伝えられてないけど、元々美人なんで、誰かにとられないうちに何とかしなきゃって、最近ちょっと焦ってきてる。

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