ワクワクメールに登録したものの、女性にどうアプローチしていいかわからなかった。
そもそも、プロフィールをどこまで正直に書けばいいのかもわからない。
攻略サイトなんかを見ると、
『プロフでウソをついても仕方ないので、なるべく正直に』
みたいなことが書いてある。
だが、”45歳の既婚者”と正直に書いて、金以外の目的で会いたいと言ってくれるような女性がいるかどうか、疑問だった。
妻とは恋愛結婚だった。
付き合っていた頃はそれなりに可愛い奴だと思っていたが、結婚して子供を生んだ後は、豚のように肥え太り、見る影もなくなってしまった。
自然とセックスレスになり、子供が独立してからはほとんど家庭内別居状態で、必要最低限の会話しかしていない。
私の人生は乾ききっていた。
女性のぬくもりをもとめて水商売や風俗の店にも行ってみたが、金銭で成立している関係だと思うと、むなしさが増す一方だった。
女性らしさを失っていない女性と、普通の関係を持ちたかった。
ご飯を食べに行って、デートして、金ではなく体を求められてセックスしたかった。
そう思って出会い系サイトに手を出してみたものの、どうしていいかわからず、隙間だらけのプロフィールのまま、サイト内をさまよっていた。
そんな時、恭子という人の掲示板が目に留まった。
【金銭目的でなく、一日だけ男女としてお付き合いしてくれる方を探しています。】
プロフィールをみると、兵庫県に住む、30代後半の女性だった。
私は散々迷ったあげく、恭子に連絡をとってみた。
年齢も、既婚者であることも、全て正直に伝えた。
返事は期待していなかったが、1時間ほどでメールが返ってきた。
2ショットチャットで、もう少しお互いのことを知ってみて、お互いに会いたいと思ったら実際会ってみませんか、とのことだった。
私は言われるままにチャットをした。
チャットをしてわかったことは、恭子は38歳の既婚者。
旦那が総合職で、一年の半分は出張している。
さみしい生活を送っているので、一日でいいから男性と楽しい時間を過ごしたい、とのことだった。
私と似たような境遇だ。
いくつか言葉を交わした後、私は無事恭子と会うことになった。
私は池田市に住んでいる。
恭子は自分の住所は言わなかったが、尼崎なら知り合いに会うこともないだろうから、そこで会おうと言われた。
当日、私は車で尼崎駅まで、恭子を迎えに行った。
恭子は私を確認すると、そそくさと車に乗り込んできた。
あえて写真などは交換していなかったが、恭子は、今は亡き本田美奈子を思わせる、上品な顔立ちの女性だった。
私の方はといえば、どこにでもいる冴えない中年のオヤジだ。
こんなのが相手で良かったのかと心配になったが、
「今日一日よろしくおねがいします」
と笑顔を向けられたので、安心した。
最初に向かったのは、尼崎市の総合文化センターだった。
私の唯一の趣味は日本画で、ちょうどこの文化センターで展示会をやっていると知ったので、それを観に行くことになっていた。
なかなか共感されにくい趣味だが、恭子は美術品全般観るのが好きだと言ってくれた。
私に話しをあわせてくれたんだろうと思っていたら、実際に日本画にも造詣が深くて驚いた。
しぐさも喋り方も上品だし、実はどこかのお嬢様だったのではないかと思っている。
日本画を堪能した後は、寺町を散策した。
まだお互い緊張していて言葉数は少なかったが、美しい女性と並んで風情ある町並みを歩いているだけで、私の心は満たされた。
それから、デートの定石、映画館へ行った。
キューズモールで、アメリカが舞台のテロ映画を観た。
私は長いこと映画館など行っていなかったので、チケットの買い方もよくわからなかったが、察した恭子が優雅に購入を済ませてくれた。
こういうことが不慣れなオヤジにとってはとてもありがたい。
映画の最中、思い切って恭子の手を握ってみた。
恭子は一瞬驚いたようだったが、嫌がったりはしなかった。
女性の手を握ったのはどれくらいぶりだろう。
私はそれだけで、天にも昇る心地だった。
キューズモールで少しショッピングをした後、食事をしに行った。
善兵衛という、石釜でピザを焼いてくれるイタ飯屋だ。
ピザを出す店なのに、内装は完全に和風なのがユニークだった。
私は車なので飲めなかったが、恭子はワインを2.3杯飲んでいた。
あまり強いほうではないらしく、すぐに顔が赤くなった。
目がトロンとしているのが色っぽくて、私は正直そのままホテルに連れて行きたかった。
だが、今日はデートをしに来たのだ。
恭子だって、そういう目的で来たんじゃない。
今日一日美人と過ごせて良かったじゃないかと、私は自分に言い聞かせた。
こんなオヤジでは嫌がられるだろうし、久々の楽しい思い出の最後を、セックスをさせろさせないの交渉で汚したくなかった。
ところが、店を出ると恭子の方から帰りたくないと言ってきた。
「今日はこのまま帰りたくないです…」
そんな台詞をドラマ以外で、しかも自分が言われることになる日が来るとは思わなかった。
自制心など微塵に吹っ飛び、恭子を車に乗せるとホテルを探して車を走らせた。
蓬川公園の近くに、イージュエルというホテルを見つけた。
恭子の了解を取って、中に入る。
私は興奮のあまり、部屋に入るなりシャワーも浴びずに恭子を押し倒してしまった。
恭子は、嫌がるどころか、むさぼるように私を求めてきた。
女の体とはこんなに綺麗だったかと思うほどに、恭子の裸は美しく、柔らかく私を包み込んでくれた。
私は年甲斐もなく、一晩のうちに3回も果ててしまった。
夢のような一夜だった。
翌日、恭子を後ろ髪引かれる思いで出屋敷の駅まで送っていった。
別れ際、恭子は少しさみしそうに笑って「さようなら」と言った。
持ち物や身なりから考えると、おそらく旦那に不自由ない暮らしをさせてもらっているのだろう。
それでいてなお、さみしさに耐えられなくなる暮らしというのはどんなものなんだろうか。
恭子と一晩過ごして、私は満たされると共に、なんともいえない気持ちになった。
家に帰ると、妻は私が外泊したことにも気づいていないようだった。
あれから私は、ワクワクメールで何人かの女性と出会った。
恭子はあの後すぐに、ワクワクメールを退会していた。
出会った女性とは、デートだけで終わる時もあれば、最後までいくこともあった。
私はもう、以前のような渇きを感じなくなっていた。
プロフィールも少しずつ充実してきて、女性の誘い方もわかってきた気がする。
30代後半の女性には、20代の頃の若さを失ったことで自分への自信をなくし、その穴を埋めるために男性を求めている人が多いということも知った。
いじめや不登校、シングルマザーの環境で育った女の子は、自分よりかなり年上の男性に、優しくされたがっているケースが多いということも。
今では、かなりの確率で女性を誘い出すことができる。
ワクワクメールで何人もの女性と出会ったが、恭子のことは未だに忘れられない。
今頃どうしているだろうか。
私が言えた義理ではないが、幸せであってくれればいいと思う。