ジュエルライブ マダムライブ

「何のスポーツやってたの?」と、よく聞かれる。

僕の身長は185センチ。
胸板が厚くて肩幅が広い。

ガチムチな父親の血を継いだせいでそんな体に生まれてしまった。
でも、実際の僕は、目を覆いたくなるほどの運動オンチだ。

さかあがりが出来ない。
100mは18秒。
マウンドからホームベースまで球が届かない。

A〇Bの大ファンで握手会に行く。
ポケ〇ンが大好き。
魔法少女系アニメを心から愛してる。

僕の本当の姿を知ると、勝手に僕をスポーツマン視していた女の子は、例外なくドン引きする。
僕は別に、【スポーツ好青年です】なんて看板を出してるわけじゃないので、勝手に幻滅されても困る。

僕がハッピーメールを始めたのは、僕の正直なプロフを見て、それでもいいと言ってくれる女の子と出会うためだった。

hapime

あえて自分の写真は載せず、身長や体型のことにも触れず、ひたすらハッピー日記に、アイドルやゲームやアニメのネタを書き込んだ。

ある日、僕がハッピー日記に書いた某ロボット系アニメの考察について、メールをくれた女の子がいた。
それが、真奈美だった。
真奈美もアニメ好きな女の子で、巨大ロボが銃をリロードするシーンはロマンだとか言い放つような奴だった。
大きな共通点があったせいか、僕達はすぐに打ち解けることが出来た。
何通かメールのやりとりをして、そのうちLINEを交換して、それから割とすぐに会おうってことになった。

真奈美は僕の住んでる巣鴨まで来てくれると言ったけど、初デートで巣鴨は渋すぎる。
僕は池袋を推した。

池袋駅南口で、初めて真奈美と顔を合わせた。

真奈美は、目がでっかくて小柄で、真っ白い肌の、ちょっと勝気な顔をした女の子だった。
似てないけど、系統でいうと桐〇美玲みたいな。

ikebukuro

時間通りに南口に来た真奈美の手には、シュクリムシュクリのシュークリームが二つ握られていた。
一つは食べかけ。
で、食べてない方のシュークリームを僕に差し出して、
「はいこれ」
と言った。
はいこれって…まあ甘いものは好きなんでありがたくいただいたけど、僕は正直面食らった。
一人で剥き身のシュークリームを二つも抱えて池袋駅を歩く女の子なんて初めて見た。

LINEで話してある程度は知ってたけど、実際会ってみると、真奈美はしょっぱなからかなり個性的な子だった。

「拓ちゃんでっかいねー。海坊主みたい。これで運動オンチとか、詐欺だわ」
真奈美は、LINEでもそう呼んでいたように、僕のことを”拓ちゃん”と呼んだ。
女の子の声で改めて呼ばれると、ちょっと恥ずかしい。

真奈美はちっちゃいね、と言ったら腹にグーパンをくらった。

対面を果たした後、まずはセガ池袋へ行った。
とりあえず記念ということで、めったに撮らないプリクラを一枚。

sega

僕と真奈美の身長差がありすぎて、トリックアートみたいな画像になってしまった。
どうでもいいけど、デカ目効果で修正された自分の顔は何度見ても気持ちが悪い。

マク〇スのフィギュアを入手しようと、二人で千円つぎ込んだけどダメだった。
「アームの角度が甘いんだよなー、拓ちゃんは」
自分だって取れなかったくせに、真奈美は教官みたいな口ぶりでダメ出ししてきた。
「もっとこうさあ、取っ手のギリギリを狙って…」
と、細い腕を振り回しながら力説していた。

真奈美はちっこいくせに手振り身振りが大きくて、笑う時も笑顔全開で笑うので、見ていて楽しい。
僕はこの時になってようやく、この子と会ってみて良かったな、と思った。

セガを出て、あちこちぶらつきながらJ-WORLDに行った。
初デートでサンシャイン水族館を差し置いてJ-WORLDに行くやつらも珍しいと思う。

僕はサンシャイン水族館も候補に入れてたけど、真奈美が水族館は苦手なんだって。

本人いわく、
「だってさー、あんな大量の水がガラス一枚向こうにあるんだよ?怖いじゃん!生き物として危機感を覚えない方がおかしいって!」
だそうだ。
水族館のガラスは正確には一枚じゃなくて、何枚もの分厚いガラスを張り合わせて…という僕の説明は屁理屈だと一蹴された。

J-WORLDでかめ〇め派を撃ったりル〇ィを助けたりして一通り遊んだ後、アルパのメゾンカイザーという店でパンとコーヒーをテイクアウトして、東池袋中央公園で軽くランチにした。

こんな都心にあるというのに、この公園にはやたらとネコが多い。
真奈美はなんだかネコに好かれる体質みたいで、何匹かのネコをてなづけていた。

僕もネコは好きなので触りたかったが、僕が近づくと何故かどのネコも逃げてしまった。
「拓ちゃん無駄に図体でっかいから怖がられるんだよ」
と、ケラケラ笑われた。
好きで無駄にでかくなったんじゃない。

その後、再びサンシャインに戻ってスカイサーカスへ行った。
なんだか効率の悪い回り方をしてる気がするけど、真奈美が
「あーーーっ!!スカイサーカス行くの忘れた!!」
って大騒ぎするので、引き返したのだ。

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騒いだだけのことはあって、展望台に上がると真奈美はご機嫌だった。
「高いことに来ると気分がいいよね」
とニコニコしている。
単純な奴だ。
「人がゴミのようだー」っていう、例の台詞が出たのは言うまでもない。

スカイサーカスから散々人々を見下した後、池袋HUMAXシネマへ行った。
某巨大ロボが出てくる映画を見て、8Fのねこぶくろで映画についての討論会。
真奈美の感想を聞いていると、僕と感性が似ているなぁと思う点が多々あって嬉しかった。
ねこぶくろでは、さすがの僕でもネコを触ることが出来た。

西武池袋本店の屋上庭園を散歩した後、真奈美のたっての希望で、古城の国のアリスという、不思議の国のアリスをコンセプトにしたレストランに行った。
さすがに凝った内装をしていて、店員さんのコスチュームもまるでコスプレ。
苦手な男性も多そうだけど、僕は楽しめた。

こういうところが好きなら、今度はロックアップにでも誘ってみようかと思っていたら、真奈美がとんでもないことを口走った。
「で、この後どこのホテル行く?」
僕は危うく、飲んでいたドリンクを吹き出すところだった。
サイダーとグレープフルーツの混合液が鼻に逆流してものすごく痛かった。

息も絶え絶えにむせていると、真奈美のちっちゃい手が僕の背中をなでてくれた。
どうせならその手の感触にドキドキしたかったけど、その時は別のドキドキでそれどころじゃなかった。
真奈美はけらけら笑って、
「冗談だよ、冗談」
と言った。
なんだ、冗談か。
ガッカリしたような、ホッとしたような。

rabuho
古城の国のアリスを出て、僕らはホテルには向かうことなく、健全に池袋駅へと足を進めた。
デートもこれで終わりかと思うと何だかさみしい。
真奈美は騒がしくて一風変わった奴だけど、趣味も合うし笑うと可愛い。
いや、笑わなくても可愛いんだけど。

また会いたいなーと思っていたのは僕だけのようで、真奈美は池袋駅に着くと、
「ほんじゃ、今日はありがとね。お疲れっしたー」
とか言ってさっさと帰ってしまった。

まあ、真奈美はちょっと変わってるけど可愛いし、わざわざ僕みたいな、見た目だけスポーツマンのオタクを選ばなくても引く手あまたなんだろう。
帰りの山手線でそんなふうに考えていたら、LINEが届いた。
真奈美からだった。

【さっき言い忘れたー】

【また、拓実くんに会いたいです】

いや、このギャップの使い方はズルイでしょ!!
僕はなんだか手のひらで転がされているような理不尽さを感じながらも、真奈美に返事を返した。

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